2012年3月1日木曜日

-事件、その後-



自転車は見つかった。
では次の街へ出発します。ありがとう。
・・そんな失礼なこと絶対に出来ない。したくない。

僕にはまだこの街、武漢でやらなきゃいけないことがある。
それは自転車を捜索しているときから考えていた。
どうやってこの感謝気持ちを返そうかと。
 
これまで何万人という人々が立ち上がってくれ、そのほとんどがお互いに会ったこともなく顔すら知らない人たち。
彼らに直接会ってお礼を言いたい。
残念ながら全員にはできない、しかし一日一人ずつでもいいから、一人でも多くの人に会って感謝の気持ちを伝えたい。事件解決後、毎日そんな顔も知らなかった影のサポーターの方々との対面を果たしている。

例えばあるJennyという女性。彼女は以前武漢の中を自転車で走っている僕の姿や、カフェにいるところを見ていたという。しかし一度も話したことはなかった。
そこで起こった盗難事件のことを知り、友達を通じてインターネットや学生ラジオで呼びかけを行ってくれた。次第にSMSで連絡が取れるようになり、情報の交換が始まった。

また、感動して心がジーンと熱くなってしまった話がある。
武漢の老人福祉施設でのボランティアで知り合った友達Elaineとその多くの友達がRENRENという中国盤facebookとして有名なウェブサイトに呼びかけをしてくれていた。
 それと同時期に、杭州や南昌などの大都市だけではなく、QuzhouYiyangなどの小さな都市の仲間までもが情報を聞きつけ、協力しようと立ち上がってくれていた。
先日、Elaineの友達が「この人知ってる?」と見せてくれた写真を見てショックを受けた。協力者の写真は、紛れもなく過去に他の都市で会って来た友達の写真だった。

これまでの3ヶ月間、何十都市も自転車で周り作ってきた友達の輪が僕の知らないところで繋がっていたのだ。

「インターネット(SNW)の世界は不可思議なところが多いね。」
「世間は本当に狭いもんだね。」
と友達は笑うも、中国の友達の「絆」の強さに感激してしまった。

繰り返しになるが、事件を解決に導いたのは市民の力。
警察は最後の最後に事が大きくなったあとに面子を守ろうと出てきただけである。一部の誤報道では始めから警察が捜査に全力を尽くし、物品提供の話まで出てきたが、そんな話一度も聞いていない。知り合いの知り合いが元政界の有力者で政府に嘆願したことと、メディアが動いたため面子を守るべく警察が重い腰を上げて動いた。そして市民の力で見つけた自転車も、あたかも手柄を横取りしたように終わった。警察から特別扱いを受けたわけではないし、始めから期待もしていなかった。なぜならこの国では市民の遺失物は軽視されてしまうことを誰もが知っていたから。

通訳として同行してくれた人は高校時代5回に渡り自転車を盗まれた。しかし一度も警察に届け出をしたことは無い。理由はだいたい想像できるだろう。だから自分達の力で探そうと立ち上がった。

(以下serchina news 2012/2/23より引用)
【武漢だけでなく、中国の多くの都市で自転車の窃盗事件は珍しいことではない。自転車の頻繁(ひんぱん)な紛失はその都市の道徳喪失や治安の悪さではなく、都市の治安管理の手落ちを反映している。根本的にみると、この難題がなかなか解決されないのは、一部の行政権力が一般人の権益をまったく気にかけていないことと関係している恐れがある。
 中国の都市で自転車に乗るのは誰か?それは往々にしてその都市に住む収入の低い労働者で、発言権も権利を守る力も弱い。一方、窃盗するほうにしてみれば、簡単でリスクも低い。捕まったとしても重い罪にはならない。そのため警察、自転車メーカー、交通管理部門は自転車の防犯装置や防犯対策をさほど重視していない。自転車の持ち主までが窃盗に慣れてしまっている。結局は誰もが「警察側の迅速な対応」を受けられるわけではない。
実際、その都市と国のイメージは、高層ビルや経済的な奇跡、エリートの生活スタイルなどではなく、もっとも弱くもっとも助けが必要な一般の労働者をいかに待遇しているかによって決まる。中央の指導者は繰り返し、「体面のある労働実現」「より尊厳のある生き方」と強調している。小さな自転車の運命は労働者の体面、安全性をあらわしているといえる。
 その意味では、中国の自転車を持つ一人一人のストーリーは、社会のマナー水準をはかるひとつの尺度となるだろう。】


事件後、一部の市民の怒りが警察へと向かうのは当然だ。たかが自転車や財布と言って市民の権益を無視してきた結果積み重なっていた不満は、面子を守ろうとだけして動いた不公平な捜査を機に表面化してきた。
しかし僕にも少なからず責任がある。事をここまで大きくしてしまい、議論を呼ばせてしまった。そして結果として不本意に起こったことだが、一部の人々に不公平感を与えてしまった。重く受け止め反省しなければならない。



事件解決その後は・・。

以前のボランティアは継続し、それとは別に、大きな日本語学校でのボランティア先生や、小学生以下の子供との文化交流会、大学での講演会などの機会をいただき、出来るだけ時間の許す限り協力させていただいている。
その合間合間に「見えないサポーター」達との直接の出会いも大切にして。

これまでも、そしてこれからも支えてくれる周囲の仲間達。
顔が知れてしまった今、バスには乗れない。外を歩くときは必ず優しい仲間数人が僕を隠すように歩いてくれる。さもないと握手や写真を求められ・・。
何か大きな取材が来たときなどは必ず何人かと話し合いの場を設け、慎重に検討した上で判断している。しかしこの時期はどの取材も避けるべきだと僕らは判断した。
昨日、国営放送CCTVを断った。
時に彼らは彼らの都合の良いように書き、真実を曲げ、盛り上げたいがために報道することがある。
知っての通り、別の歴史的な問題で再び紙面が炎上している今、何を言おうが焼け石に水。

そして正直・・もう終わりにして、再び元の平和な旅生活に戻りたい・・。
時々心のどこかでそうつぶやく自分がいる。

しかし先日あるメディアの友達からメッセージが来た。
You want to be nobody as you used to be,but you are no longer a nobody.So many friends online care about you.

自転車は一人乗りだけど。もともと一人旅とは思っていなかった。
新しい街に乗り込むときはいつも一人だが、必ずどこの町どこの国にも温かく旅人を迎えてくれる人たちが居て。
いつもいつも未だ見ぬ彼らに会うのが楽しみ。

「人」なしで僕は旅を語れない。
まだまだこの街は離れられない。
大幅スローダウンしてしまったけど、いいじゃん、それも旅の一部だよね。


◆お知らせ◆

3月中旬に一度一時帰国します!(><)

目的は、
・中国VISAがもう延長できないので一度本国に帰って再取得
・母親、妹、Dariaの誕生日
・自転車が盗まれたときに戻ってこなかった重要なパーツの購入
・保険の請求・更新
・その他・・・

自転車と荷物は中国に置いたまま日本に帰り、翌月には戻ってまた同じ場所から再スタートします。

0 件のコメント:

コメントを投稿