2012年9月25日火曜日

ー人は人。政治は政治。ー




【毎日新聞夕刊コラム】(下記)

 「聞こえますか?」

襲撃に遭った日の夜、金槌で殴られた後のように頭がぽかんとしていて、電話中ですら相手の言っている事がまともに耳に入って来ず、何度も「大丈夫?聞こえますか?」と聞き返された。ショックと悲しさで一時何も考えられなかったのだろう。僕はそういう時とことん落ち込む。とことん落ちて、すぐに立ち直り、以前よりも強くなってやろうと決意する。
今回、中国人により受けた襲撃。でも救ってくれたのも中国人で、家に泊まらせ保護してくれたのも中国人、たくさんのメッセージにより励ましてくれたのも中国人。翌日だけで2つのweiboに寄せられたメッセージは12万件。そのほとんどが応援と暴徒化した一部の人々がした事への謝罪だった。僕ら以上に、中国の人々の方がこの国で起こっている悲しい現実に胸を痛めている。
「窓」の話をよく出すが、僕らはその窓から見たモノが本当に正しいのかどうか冷静に判断しなければならない。

「僕は今日本に留学している留学生です。こんな大変なときですが、いつも日本の人達は親切で良くしてくれます。」

そうコメントをくれたのは日本からの中国人留学生だった。彼だけではない。同じような境遇の在日の中国人から多くの声が届いた。

僕の周りにいるのは、ベトナムから救援に駆けつけた遠藤さん以外全て中国人だ。
彼らがよく口にする「愛心没有国界」(親切に国境はない。)は、これまで僕がよく使ってきた言葉だ。

政治は政治。人は人。

「愛心没有国界」そう信じる人が「一人」でもいれば、きっとそこから水滴の波紋のように優しさは広がって行くのではないかと信じている。
だから僕は諦めない。



森の中のように見えるが実は民家の屋根の上。堆積した山からの土砂を地道に取り覗く作業。日本と同じく警察や政府はここまで手を出さないので、ボランティアの力が必要。



【毎日新聞夕刊コラム】上海交差点=隅俊之記者
2012-9-24 より


粉々に窓ガラスが砕けた日本料理店の前で記念写真を撮る者。日系スーパーに石が投げ込まれるのを見て「もっとやれ」と笑う者。百貨店から高級ブランド品を略奪する者もいた。

 そうか、中国人は落ちるところまで落ちたのか。目の前の光景に、そう思うしかなかった。中国各地で起きた反日デモ。自分の考えを表明するのは正当な権利だ。だが、欲望のままに暴動の限りを尽くす群衆に、怒りと失望と、そして悲しさが胸を駆け巡った。

 ただ、伝えなきゃいけないことがある。中国人はそれだけではない。

 雲南省と貴州省の省境で7日、マグニチュード(M)5.7の地震があった。昨秋から中国各地を自転車でまわりながらボランティア活動を続ける神奈川県出身の河原啓一郎さん(28)は16日、西安などで集めた薬など60キロを持って、貴州省の貴陽にいた。

 その夜、河原さんは中国人の仲間ら2人と食事を終えて店を出た後、30人ほどの中国人に取り囲まれた。「日本人は殺せ」。罵倒され、腕をつかまれ、殴られた。中国版ツイッター「微博」に「とても悲しい」と書き込んだ。

 8万件を超える反響が寄せられた。「本当にごめんなさい。彼らは中国人だけど友人などではない」「ありがとう。あなたが中国でしてくれたことは忘れません」「どうか分かってください。暴徒化する者もいるけれど、理性的な中国人もたくさんいると」

 河原さんは20日、被災地の、それも支援が届きにくい山間部に薬などを届けた。「人は、一人の日本人を『窓』にして、日本人を知る。仲良く暮らしたいと思っている日本人もたくさんいるのに、それを知らない中国人も多い。逆境の時こそ、日本人の行動を途切れさせてはいけないと思うんです」

 05年の小泉純一郎首相の靖国神社参拝などをきっかけにした反日デモ。10年の漁船衝突事件をきっかけにした反日デモ。その度に、二つの国の関係は壊れそうになり、音をたてて崩れていった。今回も傷の深さは計り知れない。それでも、二つの国は隣同士で暮らしていく。ガラスの関係の最後のとりでは、政治でも経済でもない。人だ。

 微博にあった書き込み。「大切なのは今の日本を理解すること。中日両国が決めた『二度と戦争をしない』という原則は、誰も突破することはできない」。そう信じている中国人はたくさんいる。29日は日中国交正常化から40周年。(上海支局)

http://mainichi.jp/opinion/news/20120924k0000e070189000c.html

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